■「史上最も愚かなオーバーヘッドキック」

 さて最後に、「史上最も愚かなオーバーヘッドキック」の話をしよう。高校時代、ライバルチームのひとつに飛び抜けた身体能力をもつGKがいた。大きな体で軽々とセーブし、相手チームもみとれるほどのロングキックで攻撃につなげ、パスを受けてはドリブルしてさばくなど、当時のレベルを超絶したGKだった。このGKの守るゴールを破るのは至難の業と、私たちは思っていた。

 ところがある日、そのチームとの対戦にいくと、その「スーパーGK」がいない。情報を探るのがうまいチームメートが探り出してきた話は、そのGKについての「神話」を新たにするものだった。ある練習試合で、そのGKはプレーしながらゴールを大きく離れ、ハーフライン近くまで進出した。ところが相手チームのロングパスが頭上を越えそうになり、それが抜けたら相手チームのFWが独走してしまいそうな状況になった。だが「伝説のGK」はあわてなかった。驚くほど高くジャンプし、オーバーヘッドキックで見事クリアしてしまったのだ。ところがそのとき着地に失敗し、左手首を骨折してしまったのだという。

 私は、オーバーヘッドキックの練習をあきらめて良かったと思った。背中からグラウンドに落ちるなんて、走り高跳びの「背面跳び」に負けないくらい人間の本能に反した動きであり、勇気というより、「蛮勇」が必要だ。「伝説のGK」は、本当に馬鹿げたことをして高校生活の残り試合を失ったが、その向こう見ずな勇敢さは、私などとはまったく違う人種に属する違いないと、妙な感心の仕方をしたものだった。

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