■世界の黙とう事始め

「黙とう」は、「黙祷」と書く。「祷」という漢字は「いのる」という意味をもっており、文字どおり「声をたてずに祈りを捧げる」行為を示す。特定の宗教の行為ではない。キリスト教徒でも仏教徒でもイスラム教徒でも、主として死者への哀悼の意を示す行為として、いっしょに行うことができるというところがとても素晴らしい。だから、サッカースタジアムのような不特定多数の人が集まるところでもできるのだ。

 英語では「Moments of silence」あるいは「Silent prayer」と言う。1919年11月11日にイギリス国王ジョージ五世の発案で第一次世界大戦の犠牲者に対する2分間の黙とうが行われたという話がよく知られているが、記録に残る最古の黙とうは1912年2月13日、ポルトガルの上院で3日前になくなったブラジルの外交官マリア・ダ・シルバ・パラニョス・ジュニオールに捧げられたものだという。このときの10分間の黙とうは、ポルトガル上院の議事録にしっかりと残されている。

 日本では、明治天皇の大喪(1913年)のときに行われたのが最初で、関東大震災の1周年追悼式で皇太子(後の昭和天皇)が2分間の黙とうを行ったのが国民に広く定着するきっかけとなったという。関東大震災の1周年といえば1924年のことであり、世界からそう遅れることなく、日本でも黙とうの習慣が広まり、いまではもう100年近くもたっていることになる。

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