■ミャンマー国民の祈りの力
準決勝では、北朝鮮はウズベキスタン相手に5対0で圧勝しました。
守備一辺倒だった日本戦とは打って変わって攻撃的な素晴らしい試合をしたので、記者会見の時に僕は皮肉を込めてアン・イェグン監督に「チュッカムニダ(おめでとう)。ナイスゲームでしたね」と声をかけました。すると、アン監督は、あの国の監督としては珍しくニッコリ笑って「ありがとう」と素直な言葉を返してきました。
さて、準決勝の第2試合はミャンマー対カタールの顔合わせでした。カタールは年代別では実績のある強豪国であり、そのカタールに地元ミャンマーが挑む構図です。
そして、この試合はここ数年の間に見たゲームの中では最も感動した試合の一つとなりました。
前半は完全にカタールのリズムで、ミャンマーもよく耐えていましたが、45+1分にCKからカタールが先制。「下馬評通り、カタールが楽勝」と思われました。僕の隣の席で試合を見ていたフットボール・アナリストのT村S一氏は「ホテルで原稿書くから」と言い残して、前半だけで帰ってしまいました(アホやなぁ)。
ところが、後半に入るとまったく互角の激しい攻め合いとなったのです。東南アジアの気候にアウェーのカタールの選手が苦しんだのかもしれません。
そして、「トゥウンナ・スタジアム」を埋めた2万9870人の観客の祈りの力もミャンマーの選手たちを後押ししました。
ミャンマーは知る人ぞ知る熱心な仏教国です。国中、街中のいたるところに大きな仏塔が立っています。そして、寺院や仏塔ではキンピカの仏像がLED電飾の光でキラキラと輝いています。
選手たちも、満員の観客も、試合前にはともに合掌して仏に祈りを捧げます。日本のサポーターに比べれば声も小さく、とても抑制的ですが、静かに熱心に“奇跡”を祈りながら試合の流れを追っています。「やはり、サッカー伝統国なのだな」とも感じます。
62分にはアウントゥのシュートが決まり、さらに64分にはFKからのボールに走り込んだニエンチャンアウンが頭でコースを変えて、わずか2分の間にミャンマーは逆転に成功します。しかし、カタールも75分にアクラム・アフィフが25メートルのFKを直接決めて2対2となり延長に突入。結局、延長開始直後の92分にCKからつないで奪った1点を守り切って、カタールが決勝進出を決めました。
それにしても、スタジアム全体が人々の祈りの気持ちに包まれたようなゆったりとした時間の流れはとても感動的なものでした。僕は、1997年のフランス・ワールドカップ・アジア予選の時の日本のスタジアムの雰囲気を思い出しました。