円熟期を迎えたアイントラハト・フランクフルト長谷部誠のプレーが素晴らしい。「酸いも甘いも噛分ける」という慣用句がある。さまざまな経験をしているから、どんなことが起こっても落ち着いて対処できる、という意味だ。本職のボランチだけではなく、最終ラインに入っても頭脳的なプレーで守備をつかさどり、チームの攻撃のほとんどの起点となっている、まさに現在の長谷部のプレーの境地にふさわしいではないか。願わくは、ブンデスリーガで披露するそのサッカーを、ぜひ日本サッカーに伝えてもらえないだろうか——。
■守備でも攻撃でも重要ポイントは長谷部が支配
転機になったのは、第14節のレバークーゼン戦だった。
僕自身も、レバークーゼンとの試合はライブで見た。
ただ、それは偶然のことだった。たまたま正月三が日の夜中に時間が空いたので「何かやっているだろう」と思ってテレビを付けたら、たまたまレバークーゼン戦が放映されていたのだ。試合を見始めた時にはすでに前半10分にレバークーゼンが1点を先制していた。
「おお、鎌田大地も長谷部も出ているな。おっ、今日の長谷部はボランチだ」といった感じである。
そんなわけで、最後まで見る気もなく、なんとなく試合を眺めていたのだが、僕の目はたちまち長谷部のプレーに引き寄せらた。
20分過ぎには長谷部を起点にジブリル・ソウがつないでアミン・ユネスが決めて、フランクフルトが同点に追いついた。DFからのボールを受けた長谷部が間髪を入れずに中盤で浮いていたソウに速いパスを付けたことによってスイッチが入ったもので、文字通り長谷部が“起点”となって生み出されたゴールだった(試合は、後半、鎌田大地のクロスからレバークーゼンにオウンゴールが生まれ、フランクフルトが逆転勝利)。
レバークーゼン戦の長谷部は、とくに「それが長谷部であるから」とか、「日本人選手だから」ということで注目しなくても、自然に長谷部のところに目が行ってしまうような試合だった。
何しろ、“勝負の肝”となりそうな位置には必ず長谷部が顔を出すのだ。
レバークーゼンが良い位置でボールを奪ってカウンターを発動する。フランクフルトの守備陣形は崩れている。そんな時に的確にスペースをカバーしてピンチの芽を摘むのは必ず長谷部だったし、危険なエリアでは体を張って相手の突進を抑え込む。味方が何とかボールを奪った後パスコースを探しているとすぐに小さなスペースを見つけて顔を出してパスを受け、少ないタッチ数でボールを的確に配給して試合を組み立てるのも、そして同点ゴールの場面のように攻撃のスイッチを入れるのもすべて長谷部の役割だった。
だから、ただ試合の流れ、ボールの動きを見ているだけで自然と長谷部が目に入ってくるというわけだ。