■立場を理解していない選手たち
Youtubeを見ると、タンカをめぐる失敗映像が続々と出てくる。2人の搬送係が逆の方向を向いてしまったり、選手の顔がタンカからはみ出した結果、持ち上げたら搬送員の股の間にはいってしまったり、あるいはまた、搬送係がぬれたピッチに滑って転び、選手を落としてしまったり……。
あるギリシャの試合では、搬送員がいやがる選手を無理やりタンカに乗せ、タッチラインまで運び出したら、タンカごと放り投げてしまったものがあった。おそらく、ビジターチームがリードしていて、終盤に時間かせぎをしようと倒れたままなのを見たレフェリーが搬送を指示、搬送員はホームチームのボランティアということが多いから、怒りにまかせて放り出してしまったのだろう。
もちろん、Jリーグでは、そんなドタバタ劇は見たことがない。通常4人1組で務める(Jリーグの試合では、2組用意されている)タンカ要員は、しっかりと訓練されており、ていねいに、乗った選手を落とさないよう、あるいは不必要に揺らさないよう、集中して運ぶ。持ち手によって高さが変わると不安定になるから、搬送員4人の身長は合わせなければならない。そうした点でも、日本のタンカ要員はしっかりと準備されていると言えるだろう。
タンカで人を運んだ経験のある人なら、意外に大変なことを知っているはずだ。選手の体重を70キロとすると、搬送員が4人だとしても、1人に17.5キロの負担がかかる。海外旅行のスーツケースが約20キロであることを考えると、相当重いことがわかるだろう。タンカ要員は責任が重いだけでなく、実際に運ばなければならないものも重いのだ。
しかし選手たちはそんなことなどまったく理解していない。どうも選手たちというのは、「タンカに乗るのは恥ずかしい」という気持ちをもっているようだ。倒れて痛がり、ドクターに診てもらっていても、タンカがやってくると「乗車拒否」をし、片足を引きずりながらトレーナーの肩を借りてタッチラインに出ていく選手がけっこう多い。