■タフさが増した2020年Jリーグ

「ファウルはファウルです。強く押したり引っぱったりすれば、もちろんファウルになります。レフェリーはきちんと見ています。ファウルをすれば、それだけリスクはありますよ」

 映像を元にことしのレフェリング基準を説明したブリーフィングで、Jリーグ審判の指導を担当する扇谷健司さんは、私の疑問にこう答えた。

 もう多くのファンが忘れてしまっているかもしれないが、今季のレフェリングの最大の話題はビデオアシスタントレフェリー(VAR)の本格導入だった。2年間の研修と2019年のルヴァンカップのプレミアステージなどでの試験導入を経て、今季からJ1の全306試合でVARが使われることになっていたのだ。シーズン開幕時には、この「タフさ」を求める新基準はあまり注目されなかった。

 新型コロナウイルスの影響によりJ1は2月の第1節を消化しただけで4カ月間もの中断にはいってしまい、移動制限があるなかで7月に再開されたJ1では、「人員配置が困難」との理由でVARは「棚上げ」になった。しかしその一方で、厳しい過密日程のなか、レフェリーたちは「新基準」をしっかり守ってリーグを進めてきた。多少のコンタクトで倒れても、「立って!」と右手を上に向けながらふるレフェリーのしぐさはどの試合でも見ることができる。

 選手たちもそのレフェリングに慣れ、倒れそうになるのをこらえようとしたり、倒れてもすぐに起きるようになった。ときには長期離脱を要するようなケガを生む「激しすぎるコンタクト」が「ノーファウル」と見のがされることもあるが、2020年のJリーグは、日程に対するものも含め、確実に「タフさ」が増したシーズンであったのは間違いない。

 だが――。見方を変えたらどうだろう? 一対一対で対峙したとき、ほとんどすべてと言っていい選手が手を使うようになった。相手の体の前に腕を差し入れ、それを利用して体を入れようとするプレーは反則ではない。しかし手のひらを相手の腕や肩にかけてつかむのは「ホールディング」の反則である。「『不用意に』『無謀に』または『過剰な力で』」犯したときにという「条件つき」で反則になる相手へのチャージやタックルなどなどのプレーと違って、「ホールディング」は行為そのものが無条件で反則になる。

※第2回に続く

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