■多少のコンタクトでは吹かれない「世界の笛」
サッカーは「身体接触(コンタクトプレー)のあるゲーム」で、欧州のトップクラスのリーグを見れば多少のコンタクト、もっと言えばファウルがあっても簡単には笛は吹かれず、プレーの続行をうながされる。そうした笛に慣れた選手たちはともかく転ばずにプレーを続けようとするようになり、結果としてタフでエキサイティングな試合が実現されている。Jリーグが「ヤワ」な試合をしていたのではいつまでたっても世界に追いつけないし、日本のサッカーが最大の目標とするワールドカップで上位に行くことも難しい。「世界の笛」の基準は、明らかに欧州のトップクラスのサッカーのものになっているからだ。
私は、この考えを全面的に支持する。ほんのわずかのコンタクトで倒れ込む選手、大げさに痛がって相手にイエローカードを出させようとしたり、時間かせぎをしようとする選手があまりに多い。試合のなかで、見事なコンビネーションプレー、素晴らしい守備の読み、あるいはチームの献身的な動きの結果としての感動的なゴールのシーンを見ることより、こうした醜いシーンを見ることがはるかに多いのは、Jリーグの発展だけでなく、日本サッカーの発展の大きな妨げだと考えてきた。
「スタンダード映像」で示された「お手本」は、2019年のJリーグで清水エスパルスのFWドウグラスが7月のヴィッセル神戸戦で見せたプレーだった。自陣でパスを受けたドウグラスは、2回にわたって「ファウル気味」のコンタクトを受けながらそのたびにもちこたえ、50メートル近くをドリブルで運んで最後はバランスを失いながらも北川航也にパスを通し、先制点をもたらした。確かに、毎試合こんなプレーを見ることができたら、Jリーグのレベルも上がり、ファンも増えるだろう。何より、次代を担うユース年代や少年少女のプレーヤーたちに素晴らしい影響を与えるだろうと思われた。
だが、「これも反則ではない」「このプレーにも、ことしは笛は吹かれない」と例に出される別のプレー映像を見ながら、私は大きな疑問を感じた。
「この映像は、守備をするときには少しぐらい押してもいい」という誤ったメッセージを選手たちに与えるのではないだろうか。もっと言えば、「笛を吹かれない程度に軽く手を出し、相手に決定的ではないが影響を与え、プレーを有利にしろ」という、監督やコーチからの示唆あるいは指導につながるのではないか――。少し考えるだけで、そうしたことを選手に要求しそうな新旧のJリーグ監督の顔が数人浮かんだ。