たかが手袋と侮ることなかれ。冷たい手はコンディションに影響し、プレーを左右することもあるのだから。中田英寿だって名波浩だって愛用していた。受け手にやさしい繊細なパスも、スペースを切り裂く鋭いパスも、両手が縮こまっていては放つことができないからね。だから、まずは、逆から言ってみて……。
■イングランドで「手袋禁止令」が
「あ~、手袋をもってくればよかった」――。10月下旬の夜の練習でそう思った。ほんの2週間ほど前までは半そででもよかった。季節の急激な進展に、夜、少し風が吹くとどうなるのか、想像力や準備が追いついていなかった。選手の何人かは、すでに準備よくしっかりと手袋をしていた。もっとも、動き出して5分もすると、両手からはずし、くるっと丸めて投げ出すのだが……。
昭和時代の日本の気候は、令和を迎えた現在より平均気温で1.4度も低かったという。私の小学生時代には、夏はいまのような「猛暑」ではなかったし、冬の寒さはもっともっと厳しかった。霜柱を踏みながらの通学に手袋は必需品で、セーターを編んだ残りの毛糸で母が編んでくれた手袋で毎日通学した。左手から外した手袋を丸めて右手の人さし指から薬指の3本に差し込んで「人形劇ごっこ」をしたり、弟に「手袋を逆から言うと?」と質問し、指を折りながら「ロ・ク・ブ・テ」と言うと、いきなりげんこつで頭を6回叩いたりして遊んだ。
おっと、目を細めてそんなノスタルジーに浸っている場合ではない。今回は、サッカーにおける手袋、いわゆる「GKグローブ」ではなく、フィールドプレーヤーたちがする手袋についての話だ。
2年ほど前に、「手袋はサッカー選手を軟弱にするか」という話題がイングランドから伝わってきて「いまでもこんなことを言っているのか」と驚いたことがある。
プレミアリーグから数えると「4部」にあたる「リーグ2」のポートベールで、ニール・アスピン監督が「手袋禁止令」を出したというのだ。トレーニングではOK。でもトップチームの試合ではNGだという。「イメージの問題ではない。より多く走ってもらうために禁止したのだ」とアスピンは話したが、イングランドではいまだに「手袋をしてサッカーをするなんて、軟弱者のすることだ」と思っている人が少なくないらしい。アスピンも、手袋をしないほうが運動量が増えるという科学的な根拠を示したわけではない。