あれ?と思った。
試合前の練習で、ロンドに加わらず、シュート練習もせず、ただひたすら、ゆっくりとドリブルをし続ける選手がいたからだ。
珍しい光景に、誰なのか確かめようとレンズを覗いてみた。
再び、あれ?と思った。
この試合でベンチ入りしていない選手だったからだ。
川崎フロンターレの齋藤学だ。ノエビアスタジアムのピッチの感触を確かめるように進んでいくその姿は不思議だった。
もしかしたら、前の試合で負傷した三笘薫の状態次第で、キックオフ直前になって入れ替わるのかもしれなかった。
齋藤は、ハーフコートの外周を何度もボールと共に移動し、次にピッチにペットボトルを並べ、やはりゆっくりと、静かにドリブルを繰り返した。そして、チームメイト達がシュート練習を終えてロッカーに戻ると、リフティングをしてからピッチを去っていった。
一連の様子は、まるで放課後の校庭で個人練習をするサッカー好きの小学生のようだったが、小学生には決してない哀愁も確かにあった。