■南部の山国、バイエルン州の特殊性

 ミュンヘンという街はバイエルン州の州都であり、一国の首都ではない。また、ルール地域のような工業地帯でもないし、フランクフルトのような金融の中心地でもない。ドイツの人たちにとってバイエルンと言えば南部の山国、はっきり言えば「ド田舎」というイメージの地域でしかない。

 ドイツというのは、かつてはいくつもの小さな王国や公国、自由都市などに分かれており、近代になって統一されたのは1871年にプロイセン王国主導の下に「ドイツ帝国」が結成された時だった。ドイツ語を話す人々が住む国々が統一されてできたのが「ドイチュラント」なのだ。バイエルン王国もこの時にドイツ帝国に参加した。

 だが、同じくドイツ語を話す地域でも、歴史的にハプスブルグ家が支配して東欧地域を支配する大帝国(オーストリア=ハンガリー帝国)を形成していたオーストリアは第一次世界大戦に敗れて東欧の帝国領を失ってからも独立国であり続け、現在もオーストリア共和国はドイツ連邦共和国には加盟せずに、独立国の地位を保っている。

 オーストリアやバイエルンで話されているドイツ語は「高地ドイツ語」と呼ばれており、北部の低地ドイツ語とは異なった言語だ。宗教的にも、ドイツ全体ではプロテスタントが多数派なのに対して、バイエルンではカトリック教徒が過半数に達しており、その意味でもやはりカトリック優位のオーストリアと共通している。

 政治的にもバイエルン州は特殊だ。

 ドイツ全体では左派の社会民主党(SPD)と保守のキリスト教民主社会連合(CDU=CSU)という政党が政権交代を繰り返しているが(現在のメルケル政権は保守政権)、バイエルンは保守的な地域でキリスト教社会同盟(CSU)が政権を担い続けている。そして、ドイツの保守党(CDU=CSU)は全国政党であるCDUとバイエルン州の地方政党であるCSUの連合政党なのだ。

 つまり、バイエルンという州は政治的にも文化的にも、言語的にも宗教的にもドイツの中では特殊な地域であり、オーストリアと同じように独立していてもまったくおかしくないのだ。実際、バイエルンには独立運動もあるし、ある調査ではバイエルン州の30%以上の人が「バイエルンは独立すべき」と考えているという。

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