■バイエルン・ミュンヘンに抱くドイツ人の感情
そんなドイツの中では特殊な地域であるバイエルンのクラブが、全ドイツを代表するクラブであり続けるというのは、考えてみれば不思議なことではないか。
たとえば、FCバルセロナはスペインという国の中でも文化的、言語的に異質なカタルーニャの“首都”バルセロナにあるクラブだ。FCバルセロナはカタルーニャ・ナショナリズムの中心にあり、数年前にカタルーニャ独立に関する住民投票が行われた時には監督や選手たちが独立を支持する意思を表明して話題になったこともある。
そして、FCバルセロナはスペイン全体の中心であるカスティージャの首都マドリードのクラブと激しい抗争を繰り広げているのだ。レアル・マドリードが弱体化して、FCバルセロナだけがスペインを代表するクラブとしてヨーロッパの舞台で戦う事態など想像もできないことだ。FCバイエルン・ミュンヘンが半世紀にわたって全ドイツを代表するクラブとして君臨しているのは、そのような異常な状態なのだ。
ノルトライン・ヴェストファーレン州(ルール工業地帯)のケルンやドルトムント、ゲルゼンキルヘン、あるいはヘッセン州のフランクフルト・アム・マインといった大都市のクラブも、どうしてもバイエルンを倒すことができなかった。最近は、東部ザクセン州のRBライプツィヒがバイエルンに対抗しようとしているが、その牙城を崩すのは容易なことではないだろう。
しかし、不思議なことに、バイエルンの独占状態について他の地域のドイツ人が不満を表明することもないように(外部の人間からは)見える。また、FCバイエルン・ミュンヘンの存在がバイエルンのナショナリズムを掻き立てることもないようにも見える。
ドイツのサッカーについて詳しいある友人に尋ねてみた。
「たしかに、バイエルン対ザクセン、バイエルン対ノルトライン・ヴェストファーレンなどなどといった代理戦争は盛り上がる。だが、ルール工業地帯も、金融の街としてのケルンも衰退して昔のことになってしまったので、バイエルンに対抗できないでいる。しかし、逆に昔は“野蛮人”的なイメージをもたれていたバイエルン地方が、彼のクラブの存在のおかげでイメージアップを果たした」とのことだった。
つまり、ドイツにおけるFCバイエルン・ミュンヘンの存在というのは独立運動の中核になったりするのではなく、逆にバイエルンと他の地域の統合のシンボルとなったということのようなのである。