「CL決勝考察」パリ・サンジェルマンvsバイエルン(1)「最少得点の撃ち合い、氷のノイアー」の画像
決勝点を決めるキングスレー・コマン(バイエルン・ミュンヘン)  写真:代表撮影/ロイター/アフロ
【表組】 新たな歴史が刻まれたCL決勝11年史

 8月23日、エスタディオ・ダ・ルス。漆黒の夜空に響いたのは赤い歓声で、リスボンの芝をネイマールの涙が濡らした。結果は、戦前の下馬評通りだったかもしれない。ただ、ピッチの上で繰り広げられたのは、戦前にサッカーファンが妄想したエンターテインメントショーではなく、戦術と技術が融合した強度の現代サッカーだった。

 スターティングラインナップで大方の予想と違ったのは、バイエルンの左翼だった。リスボンでの集中開催となった準々決勝バルセロナ戦、準決勝リヨン戦で左のサイドでスタメンだったMFイバン・ペリシッチを外して、そこにMFキングスレー・コマンを起用したのだ。フランス代表でもあるこの若きドリブラーは、8歳からパリ・サンジェルマンの下部組織に所属していた。古巣を相手にこの大舞台で暴れてほしい、という思いがハンス=ディーター・フリック監督の中にあったのだろうか。もしあったとすれば、この試合における唯一の非論理的な部分だったかもしれない。ホイッスルが鳴ってからのピッチ上にあったのは、22人全員がタスクを精密にこなす現代サッカーだったのだから。

 試合が始まるや、まずは互いにハイプレスを掛け合った。相手選手がボールを持てば、徹底的に寄せていく。パスを寸断するため、あるいは、狙い通りに攻撃を構築させないため。バイエルンは、チャンピオンズリーグ3連覇の経験を持つGKケイラー・ナバスを押し倒す勢いでプレスをかけた。パリ・サンジェルマンは、10番を背負う王様ネイマールまでもが、猛然とボールホルダーに圧を掛けた。

 ただ、この超ハイプレスは冒頭5分程度との仕様だったのか、徐々にプレスをかける位置が下がる。このタイミングで、バイエルンは中盤でのボール保持に取り掛かろうとしていた。ボールを相手選手と相手選手の間で受け、ボールを前進させる。

 いつものスタイルを見せようとしたバイエルンだったが、最初の決定機はパリ・サンジェルマンだった。前半17分、中盤で引っかけたボールが左サイドのキリアン・ムバッペに渡る。この韋駄天は自分ではなくボールだけを裏に走らせると、同時に加速したネイマールが左足を振りぬいたのだ。パリ・サンジェルマンの攻撃2枚看板が早くも得点かと思われたが、立ちはだかったのはGKマヌエル・ノイアー。ゴールネットに一直線のボールを、左手ではじき出したのだ。外にこぼれたボールを、ネイマールは中に侵入したムバッペに折り返そうとしたが、それもはじき出す。このビッグセーブをしてもなお表情を崩さないノイアー。これがPSGの選手のこのあとの焦りにつながったのかもしれない。

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