ホームスタジアムで応援するクラブのふがいない戦いは見たくない。選手だって監督だって、そんな姿は見せたくないはずだ。ところが今シーズンのJ1リーグでは、ホームチームが格下クラブにすら勝てない試合が続出している。8月1日には、FC東京がホームの味の素スタジアムでそれまで勝ちのなかったサガン鳥栖に敗北。8節までの71試合でホームチームの勝利は22試合、勝率は約31%。いったい何が起きているのか。サポーターの声は届いているのか。
■日本では希薄だったサッカーの文化
慣れたグラウンド、ホームのサポーター、長時間の移動(旅行)をすることなくできる試合準備……。ホームにはさまざまなアドバンテージがある。だから、イングランドだけでなく、世界中で「ホーム優位」がサッカーの常識となったのだ。ところが日本のサッカーには、特殊な事情があった
日本サッカーリーグ(1965~1992)の初期には、ホームもアウェーもなかった。試合会場の用意も、チケッティングも、試合運営も、すべてリーグ事務局が行っていたからだ。参加チームは試合時間に間に合うよう会場に行けばよかった。広島の東洋工業と北九州の八幡製鉄が東京の国立競技場で試合をしても、誰も不思議には思わなかった。
多くのチームが、東京-名古屋-大阪という「新幹線移動圏」にあるなか、東洋と八幡は遠征試合ばかりになるのを避けるために全試合の半数を地元で開催した。八幡は自社のグラウンドをもっていた。東洋は、広島市内の高校のグラウンドで日本のトップリーグの試合を開催した。だが基本的に「ホームゲーム」をもっていたこの2チームは、例外的な存在と言ってよかった。
日本サッカーリーグで「ホームアンドアウェー」が明確でなかったのには理由がある。チームがスタジアムを所有していなかったからだ。「新幹線圏」のチームは、都営や市営、県営など、公営のスタジアムを借りて試合をした。現在のJリーグも似た状況だが、各クラブは「ホームスタジアム」として優先的に使用する権利を確保しているから、まったく事情が違う。ホームチームが試合運営などを担当する「自主運営」に日本サッカーリーグが切り換えたのは、1982年のことだった。
「ホームアンドアウェー」は、明確な「ホームスタジアム」があってのものだ。長い間それがなかった日本のサッカーに「ホームとアウェーの文化」が育たなかったのも無理はない。