■『サッカー・マガジン』にドレス・コード?
私が『サッカー・マガジン』で仕事をしていた1970年代から80年代初頭にかけて、メディアの世界でも、男の「仕事着」と言えばネクタイ姿だった。
私も基本的には、ジャケットにネクタイを締めて通勤していた。だが真夏になると耐えきれず、社内での編集作業だけとわかっている日にはGパンにTシャツで出社したときがあった。出版社だから服装にはそれほどうるさくなく、先輩にはTシャツ姿も珍しくはなかったのだ。
だがそういう日に限って、階段で社長とはち合わせになる運命が待っている。
「おお、涼しそうだな」
スポーツ界ではよく知られる大物だった当時のベースボール・マガジン社社長は、少し太ってはいたが、いつも端正なテーラー仕立てのスーツに身を包む紳士だった。階段を駆け下りてきた私を、その社長がわざわざ呼び止め、少し伝法な言い方で嫌みを言ったのだ。私は恥じ入り、その日限りでGパンTシャツはやめにした(しばらくの間)。
フリーランスになったのが1988年。以来、私は服装もすっかり「自由人」となってしまった。夏ならポロシャツ1枚。春秋は薄手のジャンパーをはおり、冬になるとそれがダウンコートに変わるだけ。ネクタイを締めるのは年に数度。本当に特別な場合しかない。1993年にスタートしたJリーグの試合にも、日本代表の試合にも、ネクタイを締めて行った記憶はない。その「自由度」は、年を経るとともに増している気もする。この年になると、おかしくても注意してくれる人はなかなかいないので、気をつけなければならない。