■あわやサッカーパンツ姿で記者席へ

 スタンドの記者席に座る記者たちのなかにも、最近は半ズボン姿が珍しくなくなった。試合中ずっと座っていると、太もも裏のところにたまらないほど汗をかく。その不快感を避けようと思ったら、半ズボン姿がいちばんなのだ。田村修一さんはもうずいぶん前から半ズボンだし、後藤健生さんも数年前から半ズボンで取材にくるようになった。

 だが育ちの良い私には、まだ半ズボンで取材に行く勇気はない。ただいちど、短パンのまま取材に行かなければならないはめに陥りそうな「危機」はあったのだが……。

 毎週土曜日、私は女子チームの練習に参加してからJリーグの取材に行く。ある夏の日、東京西部の日野市のグラウンドで午後3時まで練習した後、中央線から武蔵野線、埼玉高速鉄道と乗り継いで午後7時キックオフの埼スタでの試合を取材することになっていた。近くに住むコーチが車で迎えにきてくれたので、家から練習着のまま練習に向かった。だが練習が終わり、練習着から取材用の服に着替えようと思って愕然とした。着替えを入れたバッグの中には、ポロシャツや靴下はあったのだが、ズボンがなかったのだ。その日私は、取材に間に合わせるために、練習を先に切り上げていた。グラウンドではまだ練習が続いている。コーチを頼ることはできない。

 一瞬、私の脳裏を、白いサッカーパンツ姿で埼スタの記者席に立つ自分の姿が映った。そして「ありえな~い!」と小さく叫びながら、あわててかき消した。次に考えたのは、取材をやめにして帰ろうかということだった。だがそれも、私の記事をあてにしてくれている新聞社への責任上、許されないことだった。

「どこかで安いものを買えないか」と考えたとき、最初に思い浮かんだのはユニクロだった。だが近所にはユニクロの店はない。何より、私はズボンを買うときには「裾直し」をしてもらわなければならない。最近は買ってすぐに裾直しをしてくれる店などない。途方に暮れるなか、思いついたのが駅前のスーパーだった。たしか2階は生活用品売り場で、その隅には衣料品のコーナーもあったはず。「じじばば用」のゴム入りのズボンがあるに違いない。白いサッカーパンツのままタクシーでその店に駆けつけ、2階に走り上がり、見つけた。ゴム入りズボン(ベルトを買う必要がない)、1980円。レジに飛んでいって支払いを済ませ、トイレに駆け込んで着替えた。裾は折りたたんだ。こうして私は「危機」を脱したのである。

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