■本当に強いチーム作りのために

 サッカーというゲームが選手たちに与えている自由は、裏を返せば、すべての動き、プレー、そして一挙手一投足までが個々の判断に任されていることを意味している。「パーソナリティーをもったサッカー選手」とは、何よりもまず自立した人間であり、明確に自分の考えをもち、あらゆることを自分自身で判断して、自分の行動に責任をもてる人間であるはずだ。そうした強いパーソナリティーがなければ、一人前の選手と呼ばれることはない。サッカーとは「全人格的ゲーム」であり、確固たる自己の確立がプレーヤーとしての成熟に欠かすことができないからだ。

「仲良し集団」では、良いチームにはなれない。少数のリーダーと、その言うことを聞くだけの選手の集まりでは、本当に強いチームにはなれない。11の異なる「パーソナリティー」がひとつの目標に向かってまとまったとき、本当に強いチームが生まれる。

 1984年当時、日本のサッカーは長いトンネルの中にあった。。日本代表選手といっても世界と真剣勝負を戦った経験は皆無で、アジア予選でも勝ち切れなかった。このころすでに、高い技術をもつ選手は何人もいた。しかし日本国内の試合では自信たっぷりに使うことができる技術も、国際試合の厳しい戦いではなかなか発揮することができなかった。クーバーさんの指摘どおり、「パーソナリティー」が欠けていたのだ。

「まずは技術をマスターすることだ。その技術を使って相手を打ち破ったり、チャンスをつくったりできれば、自信が生まれる。そうした経験により、パーソナリティーが育つんだ」

 クーバーさんは「パーソナリティー」を育てるためのルートも示してくれたのだが、それがどれだけその後の日本サッカーに伝わっただろうか。

「サッカーの流行にかかわらず、ピッチ上で“個性”を発揮できる選手を育成することが使命」

 現在「クーバー・コーチング・ジャパン」のヘッドマスターを務める中川英治さんは、情報サイト『サッカーキング』のインタビューのなかでそう話している(2016年8月17日)。

「クーバー・メソッド」というと、いろいろなボール扱いや身のこなしのトレーニング(方法論)ばかりに目が行きがちだだが、その背後に「パーソナリティーを育てる」という最大のテーマがあることを見のがしてはならない。

※後編に続く

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