サッカー選手の“黄金の鍵”「パーソナリティー」(1)「試合を支配する人間的迫力」の画像
ドイツワールドカップでロナウジーニョと競り合う中田英寿(2006年6月22日)写真:ロイター/アフロ

真摯にサッカーに取り組む指導者にとって、忘れてはならないことがある。それは本当に強いチーム作りのために欠かせないもの。それを獲得することが、日本サッカーの究極の目標であるといってもいいのかもしれない。

■名コーチの目指したもの

 サッカー選手としての「成功」とは何か――。一元的な価値観で決めることはできない。

 一般には、より高いレベルのチームでプレーすること(Jリーグよりもプレミアリーグ)、タイトル(リーグ優勝、カップ優勝、ワールドカップ優勝)、表彰(最優秀選手賞、得点王、ベスト11)などが「成功」の基準と見られるだろう。試合数や何歳までプレーできたかなど、キャリアの長さが高く評価されることもある。そしてまた、いかにファンの記憶に残ったか、サッカーに取り組んだ姿勢、フェアプレーなど、数字として表れないものを基準にサッカー選手としての「成功」が語られることもあるに違いない。

 ただ、どんなものを基準にしても、サッカー選手が「成功」するために欠くことのできない要素がある。「パーソナリティー」である。

 英語ではPersonality。辞書を引くと「個性、性格、人格」などの訳語が出てくる。「パーソナリティー」という言葉はすでに外来語として広く使われており、近年ではディスクジョッキーあるいは特定の番組を担当するタレントという意味で使われることも多い。だがサッカー選手の成功に不可欠な「パーソナリティー」とは、いったい何だろう。

「試合を支配する人間的迫力」

 牛木素吉郎さんが示した解釈だ(『サッカー・マガジン』1984年2月号)。

 サッカーのなかで、私が初めてこの言葉を聞いたのは1983年12月。当時日本で開催されていた「クラブ世界一決定戦」トヨタカップを視察にきたオランダ人コーチのウィール・クーバーさんの口からだった。

 「日本の選手たちは実に素晴らしい。技術もあり、頭もいい。態度も立派だ。ただし欧州や南米のプロのトップレベルに並ぶためには、欠けているものがある。それは『パーソナリティー』だ」

 クーバーさんは監督としてフェイエノールトを率いてUEFAカップ(当時の欧州3大クラブカップのひとつ)を制覇した後、心臓を患い、二度にわたる手術を受けて5年間もサッカーの現場から離れていた。その間に名選手といわれた選手たちの映像を繰り返し見て技術を研究し、その習得法を編み出した。現在も日本を含む世界各地で少年少女の指導で使われている「クーバー・メソッド」というプログラムである。

 ただ、クーバーさんの最終的な狙いは、名選手たちの技術をコピーすることではなかった。テクニックを身につけることによって創造的なプレーができるようになり、最終的にはチームを引っぱっていける強い「パーソナリティー」を育てることを目指していたのである。

  1. 1
  2. 2
  3. 3