後藤健生の2020年J1展望・後編「下剋上の季節がやって来た」「命拾いの鹿島」の画像
鹿島アントラーズは危機に陥ったが…
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 いよいよ、待ちに待った日がやって来る。J1が再開するのだ。選手たちはようやくプレーできる喜びにあふれている。1プレー1プレーに感情や熱気が感じられる、そんな試合が展開されるに違いない。なにしろ、10カ月分の日程を、6か月に押し込んだ、イレギュラーなシーズンである。過酷で濃厚な戦いが続きそうだ。いったい、どんなシーズンになるのだろう。見どころの数々を展望する。

■下克上の季節がやって来た

 だが、一般的に言えば、残留争いをするチームの監督は勝点1ずつでも積み重ねることを重視するため、手堅い戦い方を選択しがちだ。

 ところが、今シーズンは降格がないのだ。それなら、上位チームに一泡吹かせるために、思い切ったギャンブルのような戦い方を選択することもできる。

 しかも、今シーズンは上位を苦しめるための格好の舞台と武器が用意されているのだ。

「舞台」とは、暑さと過密日程である。

 タイトル争いを繰り広げる強豪クラブの監督は、過酷な変則的シーズンを乗り切るために、ローテーションさせながらシーズンを通して疲労をため込むことを避けながら戦うことになる。プロ野球の先発投手のローテーションと同じで、どこかで無理をさせたら必ずいつかその報いを受けることとなるだろう。

 3週に一度ほどの割合で巡ってくるウィークデーの試合を含む連戦をどう乗り切っていくのか……。連戦の間に下位チームとの対戦、いわゆる“谷間のゲーム”があったとすれば、その試合ではメンバーを落とすことになる。

 下位チームとしては、そうした隙を衝くことができるのだ。

 普通のシーズンであれば、残留争いをするチームにとっては下位同士の試合を重視せざるをえない。上位との試合を捨ててでも、“直接対決”に力を入れたくなる。だが、今シーズンは下位チーム同士の“直接対決”など無視してもいいのだ。上位チームがメンバーを落としてきたら、思い切って“下克上”を狙うことができる。

 下位チームの監督が手にしている武器は「5枚の交代カード」である。もちろん、これは過密日程を乗り切るために採られた措置だ。上位チームの監督は、選手たちのプレー時間を調整し、安定的にシーズンを乗り切るためにこのレギュレーションを使おうとするはずだ。

 だが、下位チームの監督はこの5枚のカードをギャンブル的に使うことができる。

 5人の交代を使えば、前後半でまったく違うチームにすることもできる。

 J2の第2節(再開初戦)、愛媛FCは前半のうちに徳島ヴォルティスに3点を奪われてしまった。すると、ハーフタイムに一挙に3人の選手を交代させて流れを変え、後半に4点を決めて大逆転勝ちに成功したのだ。これは、「3点のビハインド」という緊急事態での出来事だったが、これを意図的に使えば面白い戦い方ができるだろう。

 たとえば、スタート時は守備型のチームでとにかくスコアレスのまま後半半ばまで粘って、最後の時間帯に5枚の交代を使って一気に攻撃のギアを上げる。あるいは、先制ゴールが生まれたら、守備的なカードを次々と切ってなりふり構わずに逃げ切るとか……。通常とは違う戦い方が、いくらでも考えられる。

 下位チームが強豪を倒す「ジャイアントキリング」は、運に左右されることの多いサッカーというギャンブル性の強い競技ならではの醍醐味だ。今年は、そんなシーンが数多く楽しめるのではないか。

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