■順位争いや勝ち点ではなく……

 前年王者の横浜などは、下位チームの監督が「腕の見せ所」とばかり手ぐすね引いて待ち構えていることだろう。果たして、横浜はそうした“包囲網”を突破して連覇を達成できるのだろうか……。それも見所だろう。

 ただ、最終ラインの選手でも攻め上がる横浜のサッカーはどうしても運動量を要求される。それを避けるためには、前線での切り替えを早くして相手陣内深いところでプレッシングをかけてボールを取り戻し、“攻め残り”の選手を使って攻めることだ。そうすれば運動量を減らせる。だが、松本山雅の例のようにそのプレッシングをはずされてロングボールを蹴られると、どうしても上下動が大きくなってしまう。

 天野純や水沼宏太が復帰するなど攻撃面では選手層も十分に厚くなったが、昨シーズンは最終ラインの4人をほぼ固定で戦ってきた横浜だけに、やはり暑さの中での連戦によって相当苦しむことになるだろう。

 開幕直後に中断が入って命拾いしたのが鹿島アントラーズだった。

 鹿島は、開幕戦でサンフレッチェ広島に完敗した。ACLでもプレーオフで敗れて本戦進出を逃し、YBCルヴァンカップも含めて公式戦3連敗に終わったのだ。原因ははっきりしていた。ザーゴ新監督が就任し、よりボールを保持するスタイルに転換を図り、さらに新加入選手も多数いる鹿島は明らかに準備不足だったのだ。

 なにしろ、鹿島は天皇杯全日本選手権で決勝に進出して元日に新国立競技場で戦ったためオフ入りが遅れてしまった。しかも天皇杯は決勝で敗れたため「Jリーグ3位」の資格でACLに参戦することとなり、1月28日のプレーオフからの戦いとなってしまったのだ。そのため、オフの期間も、準備も足りないまま公式戦に突入してしまったのだ。

 鹿島にとって、リーグ戦の中断はまさに「救いの神」となった。もちろん、中断期間中はトレーニングができない期間も長かったが、落ち着いて長期間の準備ができたし、頭の中も整理できたはず。新たな気持ちで再スタートが切れることだろう。

 同様に、新監督を迎えたチーム、新加入選手が多いチームなどは、中断によって与えられた時間は貴重なものだった。もちろん、大事なことはせっかく与えられた時間を有効に使えたかどうかなのだが……。

 なにしろ、イレギュラーなシーズンである。さまざまな意味で不公平感も大きいし、「降格なし」というレギュレーションの下では、優勝やACL出場権がかかる上位争いはともかくとして、中位や下位のクラブにとって順位争いはほとんど意味を持たない。順位がある程度確定してしまえば、来シーズンの準備のために若い選手たちに経験を積ませながら戦った方が得策ということにもなる。

 したがって、見る側にとしては“順位争い”などに一喜一憂しても意味がない。

 今シーズンは、むしろ一つひとつのゲームを楽しんだ方がいいのではないだろうか。

 試合によって、状況はさまざまに変化する。たとえば、どこかのチームに感染者が出てトレーニングができなくなるとか、第2波が襲ってきてある特定の地域で試合が中止となったため、日程上さらなる有利・不利が生じることもあろう。

 そうした状況をどのように利用して戦うのか。しかも、5枚の交代カードを駆使して戦うことによって通常の試合とはまた違った戦い方もできるのだ。監督のマネージメント能力が大事になる。

 つまり、今年のJリーグは順位争いや勝点の計算よりも、個々のゲームそれ自体を楽しむ、あるいはいつものレギュレーションではありえないようなゲームを楽しむ、そんなシーズンにしてみてはどうだろうか。

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