■脳が揺れている
ことし2月英国のイングランド、スコットランド、北アイルランドの3協会が連名でひとつの指針を発表した。
・小学生年代ではヘディング練習禁止。
・12歳から16歳までは、段階的に練習を許す。
・年齢に応じた適当なサイズのボールを練習や試合で使用する。
・試合ではヘディングは禁止ではないが、ヘディングの回数は考慮に入れるべきである。
昨年10月、グラスゴー大学がショッキングな研究結果を発表した。
「サッカー選手は、そうでない人の3.5倍も脳障害での死亡率が高い」
「元プロサッカー選手では、変性脳疾患での死亡の割合がパーキンソン病での死亡の5倍にもなっている」
この研究を受けての英国3協会の判断だった。
ヘディングの誕生は、サッカーが生まれて間もない1860年代後半。ロンドンと並んでサッカーが盛んだったシェフィールドで「発明」され、一挙に広まった。
そのヘディングが脳に損傷を与えるという警告は、20世紀の半ばから何度も繰り返されてきた。
2002年、イングランド代表のエースストライカーだったジェフ・アストルという人が59歳の若さで亡くなった。そして死因が「ヘディングにのしすぎによる脳損傷」と診断されたことが大きなショックを巻き起こした。
だがそれでも、サッカー界はヘディングの危険性から目を背けてきた。「オレは何万回もヘディングしたけど、90歳になってもぼけてなどいないよ」などという発言が繰り返されてきたのだ。何やら、喫煙の害をめぐる話にも似ていなくない。
そうしたなかで、2012年、国際サッカー連盟(FIFA)が「脳振とうが起きたときの対処」を厳格に定める規定をつくった。それを受けて日本サッカー協会(JFA)も2014年に同様の規定をつくり、その後Jリーグでもこの規定に沿った対応をしている。
ことし2月に北アイルランドのベルファストで開催された国際サッカー評議会(IFAB)の年次総会では、「脳振とうが起きたときには交代枠をひとつ増やす」という新ルールの試行を行うことを発表した。交代枠を使い切って交代できないからプレーを続けさせるというようなことがないようにするためだ。
横浜F・マリノス、ジュビロ磐田、浦和レッズなどで活躍し、ヴィッセル神戸を最後に昨シーズンで引退した那須大亮は、引退時にこんなことを語っている。
「数年前からヘディングしたときに脳が揺れるようになった。ことしは練習のなかでもヘディングするたびに脳が揺れ、練習でもヘディングするのがいやになった」
ショッキングな告白ではないか。