■マスコットたちのいま
こう見てくると、過去4大会のマスコットは動物で、90年代の2体、そして「初代」のウィリーを含めると、14大会の半分に当たる7大会が「動物マスコット」であることがわかる。80年代、90年、そして2002年とやや道を踏み外してしまったが、やはりマスコットの王道は動物ということになるのだろうか。
さて、初代ウィリーから14代。マスコットたちはいまどうしているのだろうか。
ウィリーは生きていれば54歳だが、ライオンの平均寿命は25年と言われているから、すでに永眠している。ちなみに「スーパドッグ」ピクルスは、ワールドカップの翌年、猫を追い掛けているうちに首輪が木の枝にひっかかってあえなく短い一生を終えた……。
フアニートはことしちょうど50歳。3人の子どももすべて結婚し、すでに5人の孫に恵まれている。チップとタップは46歳になったが、いまも2人で仲良くビールを片手にソーセージをほお張り、バイエルン・ミュンヘンの試合に欠かさず出かけて大声で歌っている。かわいい顔をしていたガウチートはその後アイドルタレントになったが、誰もが覚えているヒット曲は20歳のころにリリースした1曲だけの「一発屋」に終わり、42歳の現在はテレビの通販番組のコメンテーターで見かける程度だ。
ナランヒートは、1982年スペイン大会が終わるとともに誰かの胃袋に収まってビタミンCを提供し、ピケはあの刺激たっぷりの「サルサメヒカーナ」の具材となってしまった。
ストライカーは26歳、犬としては超高齢だ。若いころは近所の野良犬どもを引き連れて相当ワルなことをしてきたが、現在は昼寝ばかりしている。驚いたのはフーティックスだ。22歳のいま、いたずら小僧だった面影はなく、国立先端技術学校で勉強中だという。
アトー、ニック、キャズの3人は、地球の1年間が彼らにとっての1カ月にしかならないため元気そのもので、とある地方の遊園地で「戦隊もの」のショーに出演、子どもたちの歓声を浴びる毎日だ。体自体が鮮やかな色をしているので、ショーを請け負う演芸プロの社長も「衣装代がかからず、短時間充電すれば元気になるので、コスパが良い」と相好を崩す。
哀れなのはゴレオ6世だ。あのワールドカップ後、失われたパンツを求めて旅に出たというが、まだ発見して戻ったというニュースはなく、いまどこにいるのだろう。彼にあまりに辛く当たったことを、ドイツの人びとは反省する日々だという。
ザクミはちょうど10歳。美食が過ぎたせいか、最近は虫歯で悩んでいる。フレコはある日丸まったまま寝ていたところをボールと間違えられて試合に使われてしまうというアクシデントに遭ったが、その後は元気にやっている。しかしザビバカには、ロシア中の人びとが手を焼いているという。あちこちに出没してはボールをけってそのへんのガラス窓を割ってしまうのだが、あまりに速くて捕まえられないのだ。
14代のワールドカップ・マスコットのなかで困ったのはチャオだ。無機物なので永遠に年はとらないのだが、30年もたてば手足や胴体のペンキははげて色落ちするし、ボールも白い部分が変色し、空気も抜けて、言ってみれば「クシャおじさん」のようになってしまっている。頭をちょっとかしげ、インサイドでボレーキックをするようなやや不自然な姿勢ままなのも、疲れるはずだ。
イタリアの人びとにお願いしたいのは、くれぐれも彼を「粗大ゴミ」扱いなどしないでほしいということだ。1990年イタリア大会は、サッカーの面ではそう大きな印象を残さなかったが、偉大なるローマ文明の遺跡のまっただなかで試合が繰り広げられるという、史上最も豪華な大会だった。その大会に文字どおり「色を添えた」のがこの物言わぬチャオだったことを、子どもたちや孫たちにも語り継いでほしいと思うのだ。