岩本輝雄×渡邉晋
渡邉晋(左)と岩本輝雄 撮影:中地拓也

 驚きのニュースが駆け巡ったのは、2019年12月9日のことだった。2014年シーズンの途中からベガルタ仙台の指揮を執った渡邉晋が、2019年シーズンをもって仙台の監督を退任するというのだ。
 確かに、6シーズン通して最終順位こそ1桁に乗せることこそできなかったものの、従来の仙台とは違う姿をピッチの上で表現した。
 いい立ち位置を取る――。
 相手を動かす――。
 ボールを動かす――。
 黄金のユニフォームの躍動は、プレーする人間も観る人間も興奮させた。天皇杯準優勝が嬉しさではなく“涙”を呼んだのは、進むべき道の先に優勝があってしかるべきだと感じたからだ。そしてその“進むべき道”は、渡邉が試行錯誤を繰り返した戦術によって引かれた軌跡だった。

 他方、その渡邉晋とベガルタ仙台時代にチームメイトだった岩本輝雄は、現役から離れると精力的に“戦術”を追求。現地観戦に対する強いこだわりを持ち、定期的に渡欧しては気になるチームを生で分析している。往年のサポーターにすれば、彼の才能に任せたプレーとはいささかギャップも感じるが、ピッチで起きている現象を見極める目に疑いの余地はない。
 かつて、本誌記者が連絡したところ、偶然、岩本がイタリアを訪問しているときだった。インテルの戦術で気になるポイントがあったため、訪伊したというのだ。そして、「イタリアには俺の好きなものが3つあるからね」と言っていた。その3つとはお分かりだろうか――?
 答えは、
 3バック――。
 カフェ――。
 買い物――。
 杜の都のファンタジスタは永遠なのだ。

 そんな2人の対談は、複数回に分けて公開。今回はその1回目です。

(以下、岩本=岩本輝雄、渡邉=渡邉晋、――=編集部)


岩本  ナベ監督、久しぶり!

渡邉  テル君、久しぶり!

岩本  最近、どう? 暇でしょ?

渡邉  そう、何もやることないよ。朝起きて、とりあえず30~40分走って。そのまま公園で腕立てとかスクワットして、あとは家でJ(リーグ)とか海外サッカーの映像を見てるかな(笑)。

岩本  でも、そういう時間もいいでしょ? 本当はずっと監督やっていたいかもしれないけど、たまには1年ぐらい空けてリフレッシュのもいいんじゃない?

渡邉  そうは言っても、また監督をできるかどうか分からないしね。でも、監督やってると、体がちょっとなまってる感じはあるんだよね。監督としてピッチに立っても、何かしてるわけじゃないじゃないから。だから、今走っているのもある。その辺は他の監督がどうなのか気になって聞いたら、井原さん(井原正巳・アビスパ福岡元監督)は練習が終わったら毎日走っているっていうから、同じ感覚がある人はけっこういるかもね。

――筋トレやランニングをしない代わりにしていたことはありましたか?

渡邉  その時間をすべて映像を見ることに使ってたかな。試合が終わったら、遅くても翌日までに全部見直しますよね。そこから、選手に見せるためのフィードバックの映像を編集もしますし。

岩本 映像を自分で作ってたの?

渡邉 作っちゃってたね(笑)。それに加えて、次の対戦相手の試合も見なきゃいけない。最低限、直近3試合は見るし、物足りなかったり何かひっかかれば“もうちょい、もうちょい”って見る。そうなると、走ることよりも、映像に時間を使っちゃってたね。

岩本  それって家で見るの?

渡邉  僕は家ではあまり見ないです。

岩本  家で見る人もいるよね。もう、すごいと思うよ、Jリーグの監督は。俺も映像は見るし、気になったシーンを切り取ったりはするけど。俺の場合は自分の幸福度数を高めるためだからね(笑)。

渡邉  解説で仙台に来ると、試合前に必ずロッカーに来てくれましたよね。

――え、試合のときのロッカールームってピリピリしているんじゃないですか⁉

岩本  そ、本当は入っちゃいけないの。でも、ナベ監督は器が大きいからね。

渡邉  (笑)。ホント、図ったかのように、選手が試合前のアップでいない時間に必ず来る。アップ中って、俺は一人でマグネットを使っていろいろ考えているんだけど、そこに「おい、今日はどうすんだ?」って(笑)。

岩本  違うよ、「今日はどんな感じ? 大丈夫?」ってでしょ(笑)?

渡邉  去年、初めて仙台を4バックにしたときに、外の人で一番最初に4バックのことを話したのはテル君ですから。たまたま解説で仙台に来てて、ロッカールームに入ってきて、「おまえ、今日どうすんだよ」って言われて。それがテル君だから、「今日は4バックでやろうと思ってる」って打ち明けたら、「ああ、そうだな。それがいいな」って。

――(爆笑)

岩本  その試合勝ったよね。仙台の3バックって、確かにいいときもあったんだよ。ボールをしっかりつないでね。でも、あの頃はいいときと違ってボールを持てなかったし、守備的に5バックにしてもボールを取り切れなかったりすることがあったから。そしたら、そろそろ「4」に変え時なのかなって、上から見てて感じてたんだよね。

 でも、試合前に実況に「今日は4バックだから」って言ったら、“またまた何言ってるの”って感じだったよ。

渡邉  そりゃそうでしょ(笑)。

岩本  でも、おれが解説した試合は負けないからね。

渡邉  たしかに。

――岩本さんは、渡邉さんにアドバイスをしていた?

岩本  アドバイスでなんて大それたことはしないいけど、まあ、仲間だし、一緒にやってたし、頑張ってもらいたいなって思うよね。俺はヨーロッパサッカーを現地でとにかく見てるから、Jリーグを見たときに、ぱっと見える部分とか違いがあったりするんだよね。“あれ、このやり方だと、ここでこうしたほうがいいぞ”みたいな。だから、それは少しでも伝えられたらね。

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