チーム全員をA代表経験者に
冒頭にも述べたように、若い選手たちにとっては大会が1年延期されれば、その間に実力を上げて大会に挑むことができるのだから、ポジティブにとらえることができるはずだ。
とくに日本のオリンピック世代の選手たちの多くは海外移籍をして新しい環境でのプレーを始めたばかりだ。
国が変わり、リーグが変わり、チームが変われば、プレー面でも生活面でも適応にはある程度の時間がかかる。その点、大会が1年先延ばしになれば、すでに海外クラブでプレーしている選手にとっては環境に慣れてより力を発揮しやすくなるはずだし、さらに1シーズンにわたって厳しい環境でプレーすることによって一回りも二回りも成長できるはずだ。
また、これから海外移籍に挑戦しようという選手にとっては、大会が延期になったことによって海外でのプレーを経験してからオリンピックに臨むことができる。
さらに、2月に右太腿の大腿二頭筋断裂という重傷を負って、オリンピック出場を断念せざるを得なかった安部裕葵(バルセロナB)のような選手にとっては、一度は諦めたオリンピック出場の可能性が復活したのだから、これは大きな朗報であろう。
A代表とオリンピック代表の監督を兼任する森保一監督にとっては、これまで描いていた“工程表”を見直さざるを得なくなった。
当初の予定では、A代表は3月のミャンマー戦、モンゴル戦でワールドカップのアジア最終予選進出を決めるはずだった。そして、6月の代表ウィーク以降はオリンピック代表(U-23代表)のチーム作りを最優先で進めることになっていた。
すでにA代表入りを果たしている23歳以下の選手もA代表ではなくU-23代表でプレーさせることで本格的なチーム作りを始め、あるいはA代表の試合にも23歳以下の選手を起用することによって多くの選手に出場機会を与えることも可能だった。
そして、9月以降はオリンピックで「地元開催のオリンピック」というプレッシャーのかかる試合を経験することによって成長した若手選手たちを積極的にA代表に組み込んでチーム内競争を促し、チームの層を厚くしてカタールでのワールドカップを目指す……。
それが、森保監督の腹積もりだったはずだ。