■不安定だった「世界選手権」の名称
「ムンディアル」
話は1977年、私が初めてアルゼンチンを訪れ、翌年迎えるワールドカップの準備状況を取材したときにさかのぼる。準備委員会の広報担当事務所を訪れたとき、「ジャリ~ン!」と電話が鳴り、受話器をとった女性が語尾を上げながら低い魅力的な声で「ムンディアル」と言ったのだ。何か呪術的な響きを持った言葉だった。
電話を受けたときにこちらの組織名を言うのは、世界共通である。とすると、「ムンディアル」は「ワールドカップ準備委員会」という意味なのだろうか。だがそれが「ワールドカップ」を意味するものであることは間もなくわかった。
1978年アルゼンチン大会の正式名称は、スペイン語で「Campeonato Mundial de Futbol」。直訳すれば「サッカーの世界選手権」ということになる。「ムンディアル」は、「カンペオナート(選手権)」を省略したもので、それだけで「ワールドカップ」の意味として通用するようになっていたのだ。
ちなみに、手元にある小学館の『西和中辞典』(1990年発行)を開くと、「mundial」には、「世界の」という意味の形容詞であるとともに、「(とくにサッカーの)世界選手権」という男性名詞になっていることも紹介されている。
そう、実は、「ワールドカップ」の名称は非常に不安定なものだったのである。
























