■シューズ着用が「義務」となったのは
日本サッカーリーグ(JSL)時代の1974年に、珍しいゴールがあった。藤和不動産(後のフジタ工業、ベルマーレ平塚、現在の湘南ベルマーレ)のFW渡辺三男が、シューズが脱げたままプレーし、ゴールを決めてしまったのだ。
このシーズンの第4節、4月29日に大阪の長居競技場で開催されたヤンマーディーゼル×藤和。開幕から負け知らずの2勝1分けで勢いに乗る藤和は、前半26分にセルジオ越後が振り向きざま、ヤンマー守備陣の頭上を越すシュートを決めて先制(セルジオは当時のJSLのレベルを凌駕する圧倒的なテクニックの持ち主だった)したが、ヤンマーも後半2分に釜本邦茂が左の角度のないところから左足で強烈なシュートを叩き込み、同点に追いつく。
その後はヤンマーが猛攻。しかし、後半35分、藤和がカウンターをかける。ボールを持って突進したのは、この年に日本代表にデビューしたばかりの新星、20歳の渡辺。ヤンマー選手ともつれた際に左のシューズが脱げてしまったが、そのまま突進して、その左足を強振、決勝ゴールを決めてしまったのである。
ゴールは認められた。この当時のルールでは、シューズは必須ではないと、明確に書かれていた。ただし、公式戦では、多くの選手がシューズを履いている中で、1人あるいは数人の選手が履かない状態を許してはならないとだけされていた。渡辺の場合は偶発的に脱げてしまっただけであり、まったく問題なく得点は認められた。この勝利で藤和は首位に立った。
シューズ着用が「義務」となったのは、1989年のことである。しかし、その後も、偶発的にシューズが脱げた状態でプレーを続けても、違反とはならない。現在のルールでも、「競技者の靴やすね当てが偶発的に脱げてしまった場合、次にボールがアウトオブプレーになる前に、できるだけ、すみやかに着用させなければならない。着用する前に競技者がボールをプレーする、または得点をした場合、得点を認める」と明記されている。