■エウゼビオの「キック」に驚いて

大住「釜本さんが1966年のワールドカップを現地で観戦して、ポルトガル代表エウゼビオのキックに驚いたという記事を呼んだことがある。当時はボールの真横に踏み込んで蹴りなさいと教わっていたのに、エウゼビオはボールより20cmも30cmも前に踏み込んでいたというんだよね。そうやって蹴ったボールがうなりを上げて飛んでいくのを見て、身につけようと練習したらしい」

後藤「短期留学した西ドイツのザールブリュッケンにエウゼビオのフィルムがあって、それを徹底して見たんだってね。フィルムが擦り切れるほど見たという話を、99歳で亡くなるまでサッカーを取材された賀川浩さんとの対談で聞いたことがある。ちなみに、エウゼビオは左右で脚の長さが違ったらしくて、蹴り脚のほうが少し短いことを利用して、ああいう蹴り方をしていたらしいよ」

大住「それで、ああいうキックになったのか」

後藤「ふつうの脚で真似しようとしたから、釜本さんとしては大変だったらしい」

大住「大変だったと思うけど、確かに足がボールに触れている時間が長いから、伝わる力も大きくなるよね。当時から撮影してきたカメラマンの今井恭司さんに聞いたんだけど、現役時代終盤の釜本さんは、本当にチンタラとチーム練習をやっていたんだって。でも全体練習が終わると、当時若手だったGKと楚輪博さんを残して、とにかく自分に向かってボールを出させて、それを止めてシュートを打つという練習を、30分も1時間もやっていたんだって」

後藤「すごいね。それで徹底してクロスを練習したので、楚輪さんも日本代表になるほどに上達したんだから」

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