■海を越えて選手に向けられた愛
川崎はこれまで何度もアジアの舞台に挑戦してきた。その都度、海を越えてさまざまな国に繰り出す。韓国、中国、マレーシア、タイはその一部で、極寒の地でプレーすることもあれば、猛烈な暑さの中で勝利を目指すこともある。
その中で記憶に残っているのはチャナティップとの初対戦となった23年のBGパトゥム・ユナイテッドFC戦である。この小柄なテクニシャンは23年6月まで川崎に所属しており、そのキャラクターでとても愛されていた。
それは移籍しても変わらず、チャナティップの横断幕の贈呈が試合前に両チームのサポーター間で行われた。スタジアム前の広場を、対戦相手同士とは思えぬ和やかな空気が包み込む。そして、それぞれが相混じって記念写真も行われた。
これは突発的に行われたものではない。事前にサポーター有志がコミュニケーションを取り合ったことで行われた。言語も異なる中でそのやり取りは煩雑さもあったという。それでも話をまとめたのは、チームや選手への愛があるからだった。
その夜、静まり返ったスタジアムでその横断幕を見上げるチャナティップがいた。誰もいないスタジアムで思いを尋ねた筆者に対して見せた「うれしい」という屈託のない笑顔は、この一件だけにとどまらないフロンターレサポーターが持つ愛への答えそのものと言えるだろう。その日のバンコクの夜空は、物語のように幻想的だった。