大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第156回「忘れられたキック」(2)「面」ではなく「点」で打つトーキック、ボールを蹴るのは足指の「つま先」じゃない!の画像
最近、シュートの場面などで使われることの少なくなったトーキック。かつてレジェンドたちはワールドカップの大舞台でも披露して、勝負を決めた。(写真はイメージです)撮影/中地拓也

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「忌避」され、「邪道」と言われ、使われなくなった「キック」…。

■ボールの「中心」でなければならない

 そもそも「トーキック(あるいは『トウキック』)は、足首を固め、シューズのつま先部分でボールをとらえるキックである。足のくるぶしを中心とした面でとらえるインサイドキックや、伸ばした甲の部分でとらえるインステップキックと比較すると、ボールに当たる足の面積は極めて小さい。「面」ではなく「点」で打つキックと言ってもいい。

 しかもその点は、「ボールの中心」でなければならない。中心を蹴ればボールに強い力が加わり、遠くへ飛ばすことができる。水たまりやどろんこになったピッチでこのキックを使おうとする選手が多いのはそのためだ。だが通常のピッチでは、インサイドキックやインステップキックなどと比較すると精度が著しく落ちるため、最近では、ボールを強く蹴るためにこのキックを使おうという選手はほとんど見ない。

 ラグビーでも、大昔は「ゴールキック」をトーキックで蹴っていた。しかし、数十年前頃からサッカーで言う「インフロント」、ラグビーでは「インサイド」と呼ばれるキックが使われるようになった。正確さを求めた結果だろう。

 すなわち、「トーキック」は忘れられたキックと言ってよい。サッカーでも、「基本から外れたもの」「邪道」として忌避され、タブー視さえされてきた。

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