
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「忌避」され、「邪道」と言われ、使われなくなった「キック」…。
■日韓W杯「最も輝かしい」個人プレー
2002年ワールドカップ日韓大会で私が見た最も輝かしい個人プレーは、準決勝のトルコ戦でブラジルFWロナウドが決めたゴールだった。
0-0で迎えた後半4分、左サイドでボールを受けたロナウドは、内側から当たりにくる相手を少し外に逃げながらかわすと、即座にゴールへのコースに入り、加速してペナルティーエリアに左角あたりから侵入する。そこにトルコの赤いユニフォームが群がる。左右を間近から挟まれ、前にも1人の選手。それをかわせたとしても、もう1人の選手がカバーに入っている。
だがその瞬間、ロナウドの右足からボールが放たれ、「強烈」なシュートではなかったが、低く正確にトルコ・ゴールの右隅をついた。そして何よりも、シュートのタイミングが誰にも予測のつかないものだった。トルコGKリュシュテュ・レチベルが懸命に跳んだが、左手の指先にかすかに触れるのが精いっぱい。ボールは右ゴールポストの根もとに当たってゴールに吸い込まれ、これが決勝点となった。
どんな優秀なストライカーでも、ロナウドが追い込まれた状況では、もう一歩やや右に持ち出して目の前の選手をかわし、左足で踏み込んで右足を振り抜き、ゴールを狙うだろう。だがロナウドは、3人に囲まれて走りながら右足を小さく振り、その「つま先」でキックした。トルコの選手たちもGKリュシュテュも、まったくこのプレーを予測できず、意表を突かれた形だった。