■実際は元気でも「杖をついていた?」

 当時、僕は沈完燮(シム・ワンソプ)さんという人と、よく行動を共にしていました。短期間でしたが韓国代表監督を務めたこともある人で、日本統治時代に小学校で教育を受け、サッカーをやめてからは日本との貿易に携わったこともあったので、日本語が堪能で、韓国のサッカーの歴史を調べるのを手伝ってもらっていたのです。

 僕より、20歳あまり年長で、当時は70歳台だったはずですが、杖をついてヨボヨボとした、いかにも老人ですといった歩き方をしていましたが、軽自動車を運転して身軽に動いておられました。

 あるとき、大学サッカー界の名門、高麗(コリョ)大学校のグラウンドを訪れたときのことです。グラウンドの片隅にボールが1個置いてありました。すると、沈さんが「ちょっと、蹴ってみましょうか」と言うのです。

 ビックリです。さっきまで、杖をついてヨボヨボと歩いていた人が強烈なキックを披露するのです。芯を捉えたボールがうなりを立てて飛んできました。

 そのときはカメラマンの大和国男さんと、フットボール・アナリストの田村修一さんが一緒にいたのですが、40歳台の日本人たちはまったくついていけませんでした。

 要するに、「老人はこのように行動すべき」という規範のようなものがあって、当時の韓国の老人たちは、実際は元気であっても、誰でも皆、杖をついてヨボヨボと歩いていたのです。(2)に続く。

(2)へ続く
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