その日、埼玉スタジアムは日本中から注目を浴びていた。2022年7月30日のピッチの上で行われたのは、浦和レッズと川崎フロンターレの一戦。言ってしまえば通常のJ1リーグの1試合に過ぎないが、視線を集めた理由は、アウェイチームにあった。そして、そのゲームでプロとして初めてベンチ入りしたのが早坂勇希だ。
この試合で、川崎フロンターレは苦境に立たされていた。チーム内でコロナがまん延したことで、ベンチ入りした選手は5人のみ。本来は7人いるはずの控え選手が、2人も足りなかった。
そればかりか、その5人のうちの3人がGKだった。丹野研太、安藤駿介、早坂勇希がそろってベンチ入り。先発したチョン・ソンリョンも含めれば、この試合に登録した川崎の16人中4人がGKという、異例の構成となった。
そのため、まさかの姿もあった。安藤と早坂はフィールドプレイヤーのアウェイユニフォームを着用したのだ。GKではない立場での途中出場の可能性を秘めていたためで、試合前のウォーミングアップで2人は他のフィールドプレイヤーとともに体を動かした。本来はする必要のないスローインやヘディングの練習をして、有事に備えた。この試合が注目を集めたのは、コロナによるいびつな選手構成と、それでも立ち向かう川崎フロンターレのファイティングスピリットがあったからだった。