大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第144回「スローをブキにしてくれ」(3)町田「賞賛に値する」複数のスペシャリスト確保と横浜FM戦「使い分け」からの豪快ヘッド弾の画像
J1リーグも折り返し地点を過ぎて、各チームの「町田ロングスロー対策」も徐々にできてきた。これからが黒田監督の正念場か。撮影/原悦生(Sony α‐1使用)

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、J1で旋風を巻き起こしているFC町田ゼルビアの「伝家の宝刀」について。重要なのは、細かなことをおろそかにしないこと。

■他のチームと町田の「大きな違い」

 驚いたのは、FC町田ゼルビアが左右両サイドに「ロングスローのスペシャリスト」をそろえていたことだ。今季の町田のサイドバックの基本は、右に鈴木準弥、左に林幸多郎。このコンビが、これまでの26試合のうち17試合で先発している。そして左は林が25試合で先発する一方、右の鈴木は先発17試合で、そのほかに192センチの長身、飛び抜けたスピードをも持つ望月ヘンリー海輝が9試合で先発している。

 ロングスローを使うチームは少なくないが、「スペシャリスト」はたいてい1人きりで、仮にその選手が左サイドバックだったとすると、右のタッチラインでのスローインの場合には、わざわざ70メートル近くを走っていってスローインを行うのだ。ところが町田の場合は、鈴木、林と、左右にスペシャリストがいるのである。

 J1「中断前」の7月20日に国立競技場で行われた横浜F・マリノスとのホームゲームでは、望月と林が先発した。横浜FMはハリー・キューウェル監督が解任され、ジョン・ハッチンソン監督が指揮を執った初戦。その状況に選手たちが発奮し、町田は前半を終えて0-2と劣勢に立たされた。

 町田は前半開始早々にあった右のスローインを左サイドバックの林が投げていたが、黒田監督はハーフタイムにこの林を引っ込める。湘南ベルマーレから期限付き移籍で加入したばかりの杉岡大暉を投入し、挽回を図ったのだ。杉岡はその期待に応え、左サイドの突破や威力のあるクロスでチャンスをつくった。

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