■思いがけない得点は「封印」から
しかし、杉岡はロングスローの「スペシャリスト」ではなかった。この後半には、望月が左サイドのボールも投げた。右サイドのスローも林がやってきて投げていたので、望月は不得意なのかと思っていが、どうして、彼のスローインもペナルティーエリア中央まで飛び、威力は十分だった。
だが横浜FMも懸命の守備でゴールを守る。町田に思いがけない得点が生まれたのは後半40分のことだった。
左サイドで杉岡が左ウイングの芦部晃生を走らせようとタッチライン沿いに長いパスを出したのを、横浜FMの右サイドバック松原健がかろうじて頭に当て、タッチラインに出す。ほぼペナルティーエリアのラインの延長線上。絶好の「ロングスロー機会」である。
関西学院大から今季加入した新人で、この日がJリーグ初のベンチ入り、後半33分に交代出場でデビューしたばかりのドリブラー芦部がボールを拾って投げようとするが、右から望月が走ってくるのを見るとボールを置き、中央に入っていく。
左タッチラインまで来ると、望月はビニール袋から紺色のタオルを取りだそうとする。そこにテクニカルエリアを少し出た黒田剛監督が何か声をかける。すると望月はタオルを投げ捨て、素早くボールを拾うと、腰を曲げて体を低くし、内側に立っていた下田北斗にスロー。ワンコントロールした下田は、得意の左足で一歩押し出しながらゴール前を見てライナーのボールを送る。
ゴール前の最前線には、ニア側に柴戸海、その右にミッチェル・デュークが近い距離で並んでいた。下田のキックの瞬間に柴戸が縦に走ると、そこにできたスペースにデュークが吸い込まれるように走り込んでヘッド、横浜FMのゴールを破った。デュークのヘディングは、技術としてもパワーとしても第一級のもの。さすがにオーストラリア代表である。