■盗聴は日常茶飯事「突然、電話が切れた」
だが彼も、「当局」の厳重な監視下に置かれていたのである。ある日彼が運転する車の助手席に座ってステアウアの練習場に向かっているとき、窓の外に大きな「土手」のような構造物を見つけ、私は何げなく「あれは何?」と聞いた。すると彼はあわてて右手の人さし指を口の前に立て、小さく「シー」と言った。そして乗用車の天井の中央についている「室内灯」を指さしたのである。そこに盗聴マイクが仕込まれ、車内の会話はすべて当局に聞かれているというのである。
盗聴は日常茶飯事だった、「ブカレストの帝国ホテル」に暮らす私とサワベ・カメラマンのツインルームでも、電話はすべて盗聴されていた。ある夜、私が東京のHさんに電話して状況の報告をしていたとき、Hさんが何げなく「当局はうるさいのか」というようなことを聞くと、そこで突然、電話が切れた。盗聴者は、ホテルの交換台にいるようだった。