■父親レースで12年ぶりの「奇跡の再会」
「父親レース」を見ていて、私はひとりの父親に目を奪われた。大学時代に同じクラスだったIさんにそっくりだったのだ。大柄で体をそらせて走る姿に見覚えがあった。前日私たちを誘ってくれた商社マンに聞くと、やはりIさんだった。
同じクラスの新入学生同士でも、彼ははるかに「大人」の雰囲気を持っていた。当然だった。高校を卒業すると学資をためるために数年間を自衛隊で過ごし、浪人もして、ようやく大学に進学したという苦労人だったのである。当時の私は、小学生同然だった。18歳とはいえ社会など知らず、サッカーのことばかり考えていた。しかしIさんは、そんな私に落ち着いた口調で人生のさまざまなことを語り、教えてくれた。
大学卒業から12年ぶりのことだった。しかし、Iさんも私を思い出し、自宅にも誘ってくれた。日本から遠く離れたブカレストで大学時代の同級生に会うなんて、そして、それが日本人ビジネスマンの軽いひと言に乗ったのがきっかけとは、私は人生の不思議さを思った。