■「昨年と全く一緒の状況でした」
さらにラスト15分のところで川崎はマルシーニョが退場。数的優位に立った鹿島の鬼門突破が現実味を帯びてきた。が、彼らには終了間際まで1-0でリードしていながら、山田新と家長の2発で逆転負けした1年前の苦い記憶がある。そこで植田が真っ先に動いた。
「僕が声を掛けました。昨年と全く一緒の状況でしたし、昨年の悔しさは全員忘れてない。終盤に2失点食らって負けたっていう衝撃的な展開はすごく頭に残っていますから。川崎が終盤にパワーを持ってきて、不利な状況でも逆転する試合は数多くあったので、気を付けようと伝えました」
その言葉通り、最後まで集中力を切らさなかった鹿島は7分のロスタイムを乗り越え、勝利の瞬間を迎えることができた。
「僕がチームの中で誰よりも嬉しかったと思います」と古巣対決を制した知念は神妙な面持ちを浮かべた。強い川崎の一翼を担い、鹿島へ赴き、ボランチで新境地を開拓した男はざまざまな感情が渦巻いた様子。9年ぶりの鬼門突破は彼らにとって大きな節目となったはずだ。
(取材・文/元川悦子)