現在の日本サッカーがあるのは、多くの先達のおかげだ。その尽力者は選手、監督といった直接かかわる人々だけではない。深い愛情を持ってサッカーを世に届け続けてきた大記者を、サッカージャーナリスト大住良之が偲ぶ。
■1974年のひらめき
当時は情報も非常に限られていた。「三菱ダイヤモンドサッカー」で世界の動くサッカーの姿は伝わってくるようになっていたが、週に1回の放送、しかも1試合が前半と後半に分けられて2週にわたって放映という形では、はいってくる情報も限られている。
興味深いコメントがある。「ダイヤモンドサッカー」の解説で有名な岡野俊一郎さんが、1974年ワールドカップ終了後に英国のベテランサッカー記者エリック・バッティと対談したときに、オランダ代表について話した言葉である。
「私は、オランダのナショナル・チームは以前には見たことがないので、今回のワールドカップでオランダを見て非常に興味を持った。アヤックスの試合は、一、二度テレビで見たことはあるが…」(『サッカーマガジン』1994年9月号)
岡野さんでさえこうなのである。日本では、オランダ代表のプレーぶりなどを見る機会など皆無であったことがわかる。そうしたなか、荒井さんは大会前になぜかひらめき、オランダを追いかけることにしたという。