■南米発祥か

 第二次世界大戦が終了して間もなくの1945年11月、ソ連のディナモ・モスクワが英国に遠征し、各地で試合をして回った。その初戦、ロンドンでチェルシーと対戦したとき、ディナモの選手たちは入場時にそれぞれが大きな花束をかかえており、観客からどよめきが起こった。両国国歌の吹奏が終わると、ディナモの選手たちは花束をそれぞれ同じ背番号のチェルシーの選手たちに礼儀正しく手渡すと、さっとピッチに散っていった。男性から花束などもらった経験などないチェルシーの選手たちは、しばらく茫然と立ち尽くしていたという。

 この出来事からも、イングランドには、試合前に相手に何かを贈る習慣はなかったことがわかる。ちなみに、試合前に両チームの選手たちが花束を交換するのは、東欧でよく行われていた習慣らしい。

 ともかく、「ペナント交換」はイングランドでサッカーが誕生したころからあった習慣ではなく、サッカー誕生から1世紀近くを経て南米から発生し、世界に広まったと推定される。だからこの習慣はサッカーだけのもので、ラグビーなどの「兄弟競技」を含めて他の競技には見られない。ラグビーにも「ペナント交換」があるようだが、多くは試合後に行われる「アフターマッチ・ファンクション」と呼ばれる交歓会で額に収められたものが交換される形のようだ。

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