サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「オイルマネーか人権か?」
■衝撃の「W杯デビュー」
サウジアラビア代表は、1990年代には黄金時代を迎える。1994年ワールドカップに初出場すると、初戦ではオランダに1-2で逆転負けしたものの、第2戦ではモロッコに2-1で競り勝ち、そしてグループ最終戦ではベルギーに1-0で勝ってグループ2位でラウンド16進出を決めたのだ。
ベルギーを破ったゴールは、ゴールそのものがセンセーションだった。得点者はMFサイード・アルオワイラン。前半5分、自陣中央でボールを受けるとワンタッチで前に進み、ハーフライン付近ではさみにきたフランキー・バンデルエルストとディルク・メドベドをあっさりと置き去りにし、DFラインから出てきたミシェル・デウォルフもかわして前進。さらに巧みなステップワークでDFルディ・スミッツをあらぬ方向に走らせると、最後のDFフィリップ・アルベールとGKミシェル・プリュドムに当たられる直前に不得手の右足でゴールに送り込んだのだ。
1986年ワールドカップ、イングランド戦のディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)の「5人抜きゴール」を思い起こさせる超個人技のゴールとベルギー戦勝利は、世界のサッカーの伝説のひとつとなり、サウジアラビア・サッカーの輝かしい金字塔となった。ラウンド16ではスウェーデンに1-3で屈したが、「ワールドカップ・デビュー」のサウジアラビアは多彩な才能と攻撃的なサッカーで高い評価を受けたのである。