■勲章が作られる町

 イングランドでは、いまも「原則として」試合ごとに記念の「キャップ」をつくり、出場選手に贈っている。

 「原則として」と書いたのは、ワールドカップや欧州選手権など一定期間に集中開催される大会では、大会を通じて1個の「キャップ」しか贈られないからだ。2008年にデービッド・ベッカムが「100キャップ目」の試合(パリでのフランス戦)を戦い、新たな「キャップ」を手にいれたとき、彼の自宅には実際の「キャップ」が85個しかなかったという。

 イングランド・サッカー協会(FA)が代表出場選手に贈る「キャップ」は、いまも青いベルベット製で、ときに緑のベルベットも使われているという。製作しているのは、中部イングランド、コベントリー市の郊外にある「トイ・ケニング・アンド・スペンサー」という小規模な記念品製造会社である。

 従業員約200人。ベッドワースという小さな町の住宅地のまっただ中にある3階建ての質素な「町工場」が、イングランド国内だけでなく、世界中のサッカーファンを熱狂させるイングランド代表選手の栄誉を称える唯一の「勲章」の生誕地であることを知る人は、この町にも少ないという。

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