■最初で最後

 イングランドは前年のワールドカップで初優勝を飾ったばかり。世界チャンピオンである。20歳のホリンズは白いユニフォームに身を包み、9万7500人が見守るピッチに立った。試合は緊迫感の富んだものとなったが、後半28分にジミー・グリーブスが均衡を破り、3分後にロジャー・ハントが追加点を決めてイングランドが2-0で勝った。

 デビュー戦のホリンズは輝かしいプレーを見せた。先制点の場面では、アラン・マレリーのパスを受けて左サイドを突破、コーナー付近から見事なクロスを送り、それをアラン・ボールが頭で落としたところをハントがシュート、スペインGKホセ・アンヘル・イリバルが防いだものの詰めたグリーブスが決めたのだ。決定的なプレーはホリンズの突破とクロスだった。

 だが「デビュー戦」の緊張からか、ホリンズは試合終盤に足をつらせ、前年のワールドカップのヒーローのひとりでホリンズより3歳年上のマーチン・ピータースとの交代を余儀なくされる。そして3日後のウィーンでのオーストリア戦には足の状態が良くならずに出場できず、12月のソ連戦には呼ばれたもののベンチから出ることはなかった。1970年にメキシコで開催されたワールドカップでは40人の事前登録メンバーにはいったものの、メキシコ行きはならず、1971年のギリシャ戦も招集は受けたが出場機会はなかった。

 ホリンズはクイーンズ・パーク・レンジャーズとアーセナルでもプレーしたが、主な活躍の舞台はチェルシーだった。このクラブで465試合ものリーグ戦に出場、48得点を記録した。167試合連続出場というクラブ記録もつくり、熱狂的なファンに愛されつつ、1984年、36歳で引退した。彼はチェルシーのファンにとって永遠のアイドルであり、フットボルリーグのスターだった。しかしイングランド代表との縁が深くなることはなかった。

 「あの夜、私はイングランドの『ベスト・イレブン』の一員だった。たったいちどの代表戦となってしまったが、それをくよくよと思ったことなどない。私のプレーは私自身がしたもので、それを変えたいと思ったことなどない」と、ホリンズはロイドのインタビューに答えている。

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