蹴球放浪家・後藤健生にとって、旅とはサッカーと出会うための道である。出向いた先々で、サッカーを探し続ける。世界中に、あらゆるレベルでサッカーがあふれているのだ。
■なぜロッカールームで着替えないのか
さらにローカルな試合を見に行ったこともあります。
2014年9月に韓国の仁川(インチョン)で第17回アジア競技大会が開かれました。僕は取材申請もしてなかったのですが、場所が韓国ということもあって急に行く気になったので、現地で入場券を買いながらの観戦でした。
たまたま試合のない日があったので、早速、何かやっていないか調べてみました。そして見つけたのが「K3リーグチャレンジ」のソウル・ユナイテッド対忠北清州(チュンブク・チョンジュ)という試合でした。
韓国のリーグ戦のフォーマットはしょっちゅう変わるのですが、2014年時点ではK1リーグ、K2リーグの下にセミプロのナショナル・リーグ(Nリーグ)があり、K3は4部相当のアマチュアリーグでした。
会場はソウル市内の最も北に位置する蘆原(ノウォン)区のマドゥル公園内にあるサッカー場。小さなメインスタンドがありましたが、他の3方向にはスタンドはありません。お客さんは50人くらいで、ほとんど関係者か家族。もちろん取材記者なんて1人もいません。アウェー清州の選手たちは、なぜかロッカールームではなくメインスタンド前の広場みたいなところで着替えをしていました。
「どうせメンバー表なんてないだろうな」とは思いましたが、一応、本部席に行って「日本人記者イムニダ。メンバー表オプソヨ?」と聞いてみました。そうしたら「ちょっと待ってて。コピーしてあげるから」と言われました。もらったのは両チームの全登録選手のリストでした。身長・体重・出身校などに加えて姓名の漢字表記まで載っている“優れもの”でした。
試合は前半5分に清州の崔楡尚(チェ・ユサン)が5人の壁を撃ちぬいて直接FKを決めて先制しましたが、30分にソウルの辺浩セ(ピョン・ホセ)がロングスローのボールを直接決めて1対1の引き分けに終わりました。