大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第111回「『政治利用』されたサッカージャーナリスト」(3)のちのブラジル代表監督とともに黄金期をつくった「不滅の会長」たる所以の画像
1983年グレミオの取材で「政治利用」されたジャーナリスト (c)Barlos Mopedo

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は思いがけない「罠」の話。

■豪華な食事会

 9月8日は、南半球のポルトアレグレでは冬である。寒さはそう厳しいわけではないが、夕刻6時半には日も落ち、ホテルに迎えの車がきた7時半には、とっぷりと暮れていた。私とサワベ・カメラマンを乗せた車がどこを走っているのか、まったく見当がつかなかったが、ともかくどんどん高いところに上がっていくように思った。ポルトアレグレという都市は、港の周辺を除くと丘陵地帯に町が散在し、道も曲がりくねっている。

 1時間近く走って到着したのは、小さな町だった。その町の古びた体育館には、舞台側に1列のテーブルが置かれ、フロアには、それに直行するように何列も非常に長くテーブルが並べられ、白い布がかけてある。舞台側のテーブルの中央には大きなリベルタドーレス杯。そしてその隣にはコフィ会長。さらにクラブの役員たちが顔をそろえている。

 フロアのテーブルには、この小さな町の人びとが次々とはいってきて着席する。私とサワベ・カメラマンは、舞台に近い一角に座らされた。長テーブルでの食事といっても、ブラジルである。最初は大皿にあふれるほどのサラダがサービスされ、それが済むと大きな肉のかたまりが配られ、フェジョンと呼ばれる黒豆の煮込みとライスが添えられる。ワインは飲み放題(私は例によって水だけである)。もちろん食後には、大皿に盛られたフルーツと、そしてコーヒーが出された。

 そして一段落すると、コフィ会長が立ち、何やらスピーチを始める。この日は通訳にはきてもらっていなかったので内容はほとんどわからなかったが、会長はさすが法律家である。渋い声ながら話の抑揚が見事で、言葉もよどみがない。町の人びとはその話に聞き入り、ときおり大きな歓声がわき、盛大な拍手が続く。どうやらこれは、地域ごとのリベルタドーレス杯優勝の祝賀会のひとつであったようだった。

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