大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第103回「おお、芝生!」(3)菅平高原の「すき間」を埋めた専門誌編集長の熱意の画像
5月、緑美しい菅平高原のサッカー場。故・千野圭一さんの情熱と、地元旅館組合の丹念な作業の結晶だ(2013年撮影) (c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは「ミスター・ピッチ」。

■隆起するピッチ

 ところで、「サッカーの聖地」のひとつ、イングランド・マンチェスターのオールド・トラフォード・スタジアムのピッチは、ちょっとおかしい。ピッチ面が大きく盛り上がっているのだ。もちろんピッチ面は平らである。しかし観客席が掘り込んであるわけではないのに、その1列目よりおそらく1メートル近く高いところにピッチがあるのである。大相撲の土俵を想像してもらうとイメージしやすいかもしれない。

 1977年に初めてこのスタジアムを訪れたときに芝面の高さに気づいた。そのときは20センチほどだったと思う。しかし35年後、2012年のオリンピックで行ってみると、50センチもの段差になっていた。ピッチは明らかに「隆起」していたのである。いや、本当は、地盤が隆起したわけではなく、芝面が上昇していたのである。

 芝はイネ科の多年草植物で、葉も根も毎年更新されていく。それが積み重なって、次第に厚さを増す。放置すると、いつの間にかオールド・トラフォードのようになってしまうのだ。オールド・トラフォードではCKをける選手がやや低い位置からスタートするのに気づいたファンも多いのではないか。

 埼スタでも、1年間に平均してピッチが高くなり、改修のために検討を始めた2018年(完成から17年)の時点で17センチもの上昇が見られたという。年平均で1センチというのは、かなりの速度と言わなければならない。そうした自然な変化をリセットするためにも、定期的な改修工事が必要となるのだ。

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