■口を開かない通訳

 大昔、ジーコが住友金属(現、鹿島アントラーズ)の選手として来日したころの話です。

 あるスポーツ雑誌で「ジーコとラモス瑠偉の対談」という企画があり、その司会という仕事を仰せつかりました。

 ジーコさんは非常に几帳面な性格の人で、段取りに手間取っていると怒られますから、会場となったスタジオには緊張感が走っていました。一方、いつもは饒舌なラモスさんですが、さすがにジーコさんの前に出ると緊張している様子が垣間見えます。

 さて、2人の対談が始まりました。僕の横には通訳がいて2人の会話を逐一日本語にしてくれることになっていました。日系ブラジル人の若い女性でした。

 ところが、2人が話を始めたのに、この「通訳」がほとんど口を開かないのです。

 彼女はたしかにブラジル語(ポルトガル語)と日本語ができますが、通訳の経験がなかったのです。

 2人の会話がいろいろな話題に飛びながら進んでいくスピードに付いていけていないのです。そして、焦れば焦るほど言葉は出てこない……。すると、さらに話はどんどん進んでしまう……という悪循環に陥ってしまいます。

 周りにいた編集者も、そして対談をしている2人も異変に気が付きました。

 こうなったら、ラモスさんを通訳代わりに使うしかありません。

 さいわい、当時の僕はスペイン語なら70%くらいは理解できました。ブラジル語はほとんど分かりませんが、それでも2人が何についてしゃべっているかくらいはフォローすることができます。そこで、「話が脱線したな」と判断すると、話題を本筋に戻すような質問を(日本語で)します。それで、ラモスさんが話題を変えてくれるというわけです。

 僕のカタコトのスペイン語が、こんな形で役に立ったのです。

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