■唯一、連絡をした人
誰にも言えないその葛藤の中で、唯一、連絡をしたのがGK新井章太だった。発表される前に、報告しておきたかったのだ。2013年から19年まで川崎に所属していた新井からは、一度は「戻んなよ」と言われたものの、「やっぱりおまえは戻って活躍したほうがいい」と送り出されたという。「章太さんにだけは伝えておきたい」と思って手にした電話で、田邉の心中にあった決意はさらに強いものとなった。
昨シーズンが終わったあと、川崎の東南アジア遠征に参加。その際の試合後、鬼木達監督やコーチからは「いいね」「素晴らしい」と褒められていた。千葉で実戦経験を積んだことで自信がつき、それがプレーにも表れた。
「千葉でいろいろ経験できて、プレーの基準が上がったのかなと思います。それは素直に嬉しかったですし、今日も練習に参加しましたけど、1年目よりは恐れずにビビらずに千葉でやっていたことをそのままやれるなって感触はあったので、このままずっと続けていきたい」
決意を固めた若武者が、川崎のゴールを守り切る。それが千葉への恩返しでもあり、自身が目指す成長のためでもあるからだ。
(取材・文/中地拓也)