大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第105回「霧にむせぶ夜」(2)チェルシーを相手にただ一人で15分間戦い続けた男の画像
向こうのゴールが見えなくなったら「濃霧」。試合続行の可否を考えなければならない。(c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、白い魔物のお話。

■孤軍奮闘のGK

 霧についてはイングランドに有名な話がある。濃霧で試合が中止になったことを知らされなかったGKが、15分間も無人のピッチの自陣ゴール前に立ち、相手の攻撃を待ち続けていたという話である。

 第二次世界大戦前の1937年のクリスマスの日、1部リーグのチェルシー対チャールトン・アスレチック。チャルシーのホーム、スタンフォード・ブリッジ・スタジアムで行われた試合は、キックオフ後しばらくして南のテムズ川方面から流れてきた霧に包まれ始めた。ビジターチーム、チャールトンのゴールを守っていたGKサム・バートラムは、すっかり霧に覆われた南側のゴール前に立つ相手GKビック・ウッドリーの姿が見えなくなった(この時点で「濃霧」である)が、試合は続けられ、試合は後半にはいった。スコアは1-1だが、チャールトンが優勢に進めている。バートラムはいつチェルシーのカウンターがきてもいいように集中を切らさなかった。

 だが、まったく相手がくる気配がない。バートラムは「うちの選手たちはチェルシーを圧倒し、相手ゴール前で攻め続けているに違いない。そのうちに勝ち越し点を取って自陣に戻ってくるはずだ」と考えていた。寒い日だったから、体を冷やしてしまわないよう、常に足を動かし、ときおりペナルティーエリアの外まで出て状況を見ようとした。しかし霧は濃くなる一方で、両チームの選手たちの姿もまったく見えない。

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