■天才を活かして自分も稼ぐ

大住 ところで、フランスもアルゼンチンも、大会の最初のころはまったく良くなかった。エムバペとメッシに「お任せ」のようなサッカーで。彼らにボールを渡したら、「行ってよ」みたいなチームだった。それが大会の途中から大きく変わった。

 フランスは準々決勝のイングランド戦で見違えるようなチームに変貌した。アルゼンチンも、決勝戦では「こんなにハードワークを続けるチームはみたことがない」と思えるほどになった。これはどういうことなんだろうか。

湯浅 監督がすべてじゃないのかな。長谷部誠のような影響力のある選手がいたわけでもないし。あるいは、チームにかつてのオリバー・ビアホフ(2004年からドイツ代表のチームマネジャーを務めた)のようなコーディネーターがいたのかもしれない。

大住 フランスはラウンド16でエムバペが怪物そのもののシュートを連発してポーランドに3-1で勝った。アルゼンチンは準々決勝でオランダとの魂も凍るるような試合をPK戦で勝ち抜いた。そうした「ひと山越えた」ところでチームが変わったような気がしたね。逆にほんのちょっとしたことでその「山」を乗り越えられなければ、カタール大会はまったく別のストーリーがあったかもしれない。

湯浅 エムバペもメッシも守備はまったくやらない。けれど個人でチームに勝利をもたらす力をもっている。彼らふたりのいわば「エゴイズム」を、チームのモラルを落とすことなく、これ大事なところね、チームのモラルを落とすことなく、彼らの良さがちゃんと機能できるチーム構成にした。

 よく「自己犠牲」などというけど、本当の心理は「あいつを生かせたら、おれたちもっとカネ稼げるぜ」って。だから少し余計に汗をかきましょうという感じじゃないかな。

大住 僕は、チーム全員が彼らを頼りにしていたように思う。頼りにできるものがあるから、自分はこれをやりきれば勝てるって信じ込めるんじゃないか。湯浅さんが使う言葉で僕がいちばん気に入っているのが、「自分で仕事を探せ」というものなんだけど、監督やコーディネーターの働きかけもあっただろうけど、最終的にはそこに落ち着くんじゃないか。準決勝からのフランスとアルゼンチンは、全員がそれができていた気がする。

湯浅 このごろは「主体的プレー」と言っているんですけどね。

(3)へ続く
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