■期待にたがわぬプレー
さて、なんとか始まった試合はサントスが完全に支配、前半9分にFWジャディールのゴールで先制すると、後半29分と31分にはペレが連続得点。スタジアムの熱狂は頂点に達した。日本代表の長沼健監督は「スッポン」のニックネームをもつDF山口芳忠をペレへのマンマークにつけたが、チームにとっての3点目、ペレ自身の2点目はそのマークをまったく無力化する驚くべきものだった。
正面、ペナルティーエリアのわずか外で浮き球のパスを受けたペレは、背後から厳しくチャージする山口にも動じず、胸でコントロール。ターンしながら右足でそのボールを左に浮かして山口を外す。ボールを追うペレ。カバーにきたDF小城得達が追いすがる。バウンドするボールを小城が左足を上げてつつこうとした瞬間、ペレは走る方向を左からゴールラインへと変え、上体を傾けながら頭でボールを叩いて前に出して加速する。そして次のバウンドからボールが上がってくるところに左足を一振、GK船本幸路が守る日本ゴールの左上隅を突き抜いたのだ。
まさに日本のファンが夢見ていたプレー。それをペレはまざまざと見せてくれた。1960年代からサントスFCは世界を舞台に数多くの親善試合(1年間に数十試合にもなった!)をこなし、ペレはほぼ1試合に1ゴールの割合で得点を重ねて世界のファンを喜ばせてきたが、これほど見事なゴールはそう多くはなかったのではないだろうか。