■奇跡のFKの土台

 この試合は、試合終了まで120分間を通じてオランダに8枚、アルゼンチンには10枚、計18枚ものイエローカードが乱れ飛ぶ「大荒れ」の試合だった。交代出場で2点を決めたウェフホルスト自身、ベンチにいた前半終了間際にイエローカードを出されている。後半のアディショナルタイム入り前、42分には、オランダのDFナタン・アケに乱暴なタックルをして反則の笛を吹かれたアルゼンチンMFレアンドロ・パレデスがこぼれたボールをオランダのベンチにけり込み、あわや乱闘という「事件」もあった。

 18枚もイエローカードが出されながら、「2枚目」でレッドカードになったのは、PK戦後のトラブルで2枚目を受けたオランダDFデンゼル・ドゥムフリスひとりだったのも興味深い。彼は「トリックFK」のときにはハーフライン近くでアルゼンチンのカウンターに備えており、自陣ペナルティーエリア前でただひざまずいて祈るしかなかったオランダGKアンドリス・ノペルトとともに、ピッチ上22人の選手のなかでただふたりの「トリックFKの蚊帳の外」の選手だった。

 そうした異常な雰囲気の試合のなかでも、互いへの信頼を失わず、勝利だけを目指してそれぞれが自分のなすべきことに集中し、最後の最後という場面でチームワークを結実させたオランダの姿は、本当に美しかった。そしてその美しさの背景に、人智を尽くした試合準備があったことを忘れてはならない。

 試合は延長で得点が生まれず、PK戦ではアルゼンチンGKのエミリアーノ・マルティネスの超人的な活躍でアルゼンチンが準決勝に進んだ。しかしオランダが見せた奇跡と言っていいFKとともに、ルサイル・スタジアムで8万8235人が見守るなか行われたこの準々決勝は、永遠に記憶に残る試合となった。

PHOTO GALLERY ■【図解】オランダがアルゼンチン相手に決めたトリックFK
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